山小屋レポート - 赤石岳避難小屋report
自然に教えられることがいっぱいです! - 赤石岳避難小屋 後藤智恵子さん、榎田善行さん -
施設情報
営業期間 | 2023年7月13日(木)~9月24日(日) |
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標高 | 3,090m |
収容人数 | 15人 |
料金 | 素泊まり 10,000円(寝具込) ※事前予約なく利用 1,000円加算 |
食事提供 | 軽食販売あり(レトルト食・カップ麺等) 飲料類の販売あり |
テント | 幕営なし |
トイレ | あり |
水場 | なし |
WEBサイト | https://www.t-forest.com/alpsinfo/climber/lodgeinfo/ |
予約について | 小屋泊は、事前に予約が必要です 【6/1から予約受付開始】 |
問い合わせ先 | (株)特種東海フォレスト 事業開発部 電話番号:0547-46-4717 |
1年間に1,000人を超す訪問者を迎える
後藤さんは、太平洋に面する静岡県御前崎市の出身。山の自然に魅了され、これまで、山の仲間と共に静岡の山や、北アルプスの山を楽しんできた。そんな後藤さんが、南アルプスの自然に出会ったのは、今から40年ほど前に訪れた二軒小屋(にけんごや)に宿泊したとき。丁度、今上天皇が千枚岳(せんまいだけ)に登頂された時期である。
人が少なく、自然がそのままに残っている南アルプスの環境や、初めて二軒小屋に宿泊したときの感動を忘れられず、退職後に山小屋に通い、12年ほど前に赤石岳避難小屋の管理人となった。そんな後藤さんを支える榎田さんは、人を惹きつける独特の温かい雰囲気をお持ちの、言わずと知れた名物管理人だ。榎田さん曰く「後藤さんは、僕には無い女性ならではのきめ細かさがあるんだよ~。2人ペアで1人前かな!」とのこと。二人が運営する山小屋の楽しそうな雰囲気がひしひしと伝わって来る。自炊が基本の避難小屋だが、カレーや白米のレトルトは販売しているとのこと。
「毎年たくさんの登山者が訪れ、お客様と話すことで、その方の人生を垣間見ることができるのが楽しみとともに有難いことだと思っています」と後藤さん。中には、厳しい山道を歩いて貴重な水を小屋に届けてくれる登山者もいるなど、登山者全員に感謝することがいっぱいとのこと。
冬季は、市街地から遠くに見える白く雪をかぶった赤石岳を眺めると、「あの山頂で働かせていただいていることが、幸せと感じます!」と、後藤さん。謙虚にやさしい眼差しで話す後藤さんに、登山者達は、元気や癒しをもらい、次の目的地へ出発していくのだ。
山の上では、肩書に関係なく素の人間として付き合える
長時間の登山の末に赤石岳避難小屋に到着する多くの登山者からは、社会的な地位や人間としての欲が削げ落ちるのか、素の人間同士として話ができることが、山小屋管理人としての喜びなんですよ、とお二人は語る。「自然の中を長時間歩く事で、無我になる『歩禅(ほぜん)』状態になるのかな」と榎田さんが付け加えた。
様々な自然条件が織りなす高山の環境においては、自然から教わることが未だにいっぱいあるそうだ。標高3,000m級の山岳地帯では、花の傍らにある石をどけるだけで、次の年から花が咲かなくなり、気温10℃台の環境では、小屋の周りに暮らす小さな生き物一つ一つの生命が愛おしく感じるとのこと。
「昔は、マナーの悪い登山者が多くて頻繁に叱ったものだが、最近の若い登山者は、マナーが良いんだよ!」と榎田さん。「登山しながら落ちているゴミをいっぱい拾ってきた若い登山者に、嬉しくていっぱいご馳走しちゃったよ!」という話もあれば、山小屋付近で遭難しかけた高齢の登山者を叱ったという話も。20年前の装備で登ってきて、歩く力もなくなり倒れこんでしまったその高齢の登山者に、榎田さんは、登山を諦めるように諭したそうだ。しかし、一年後にその方が、最新の装備で再度訪ねてきて、最初は誰か分からなかったが、自慢げな姿を見てお二人はびっくりしたそうだ。この方は当時80歳近い山男で、これまで赤石岳避難小屋を訪問した登山者の中では最高齢とのこと。「何歳になってもやり直しができるんだ!」という事を再確認したという。ここを訪れる一人ひとりが他人には想像し得ない様々な人生を歩んでいる。そういった人々と交流できることが、山小屋管理人の醍醐味なのだ。
「小屋の周りはまるで天国のよう」
「赤石岳避難小屋周辺には多様な生物がおり、自然が作り出す神秘的な風景は天国のよう」と、後藤さん。小屋周辺では、イワヒバリやライチョウの家族に出合えることも。また、7月になるとクロユリや南アルプス南部では珍しいイワギキョウなど様々な種類の高山植物が花開く。後藤さんは、与え限られた場所で一生を終える鳥や花が、とても健気に思えるそうだ。
登山時の注意
富士山の山小屋を除くと、日本で最も高い場所(約3,100m)に位置する赤石岳避難小屋。付近の山小屋は、赤石岳避難小屋より500m程低い場所に位置しているのだが、この500mの差が登山者の体調にも大きく影響を及ぼすとのこと。夏季でも早朝の気温は10℃前後で、低体温症になる登山者もいる。夏でも登山する時は、十分な防寒対策が重要だ。
山頂の避難小屋から赤石小屋に向かう下山路で、気の緩みからか谷の方へ滑落する事故が起きているほか、高山病や熱中症、脱水症などにかかる登山者が多いとのこと。南アルプス南部のルートは、小屋と小屋との距離が離れているため、体調管理などは十分に気を付けたい。
静岡市から登る南アルプス
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