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自然体験活動指導者育成講座2
井川の歴史と文化を学ぶ
夏の暑さも収まり、秋の装いをし始める初秋の井川。6月に実施した自然体験活動指導者育成講座の2回目が南アルプスユネスコエコパーク井川自然の家(以下、井川自然の家)で開催された。6月の講座と今回の講座、井川自然の家で開催されるイベントにそれぞれ1回ずつ参加することで『静岡県初級青少年指導者』『静岡市環境学習指導員(任意)』『普通救命講習1』の資格が取得できる。6月の講座を受けた参加者を中心に11名が参加した。
前回は、南アルプスユネスコエコパークの魅力と指導者としての「リスクマネジメント」についての知見が中心の講座であったが、今回は自然体験に加えて、井川地域の歴史の学習や、伝統のつる細工作りを体験した。
井川の自然を体験する
井川の歴史を学ぶ
井川支所で昼食後、午後は、井川まちあるきガイドの大村勝孝さんによるガイドハイクを、2時間余り体験。戦国・江戸時代には、採金で賑わっていた町であったことや古くは南北朝時代にまで遡る歴史について学んだ。
井川と徳川家康との関係
戦国時代には、安部(海野)元真公という武将が井川地域を治めていた。元真公は、元々今川家の家臣であったが、武田信玄の駿河侵攻を機に徳川家康に仕えるようになった。武田家が滅亡後に井川に入り地域の振興に貢献した。特に当時の井川地域は、金の産出量が豊富であり、家康も資金源として重要な地域と考えていた。
井川支所を出発して、間もなく安部元真公が生まれた場所に到着。今は長島建材店があった。さらに、もう少し登っていくと、元真公の菩提寺の龍泉院がある。このお寺は、江戸幕府の公費で作られた格式の高い寺院とのことだ。
お寺には、家康公が使ったと言われる茶器などが保管されており、井川地域と家康公の関係があったことが分かる。お茶という繋がりでは、お茶の保存の為に作られた、お茶壷屋敷なども井川地域にあり、秋になるとお茶壷道中として、井川地域から駿府城の家康公にお茶が届けられた。お茶の保存も井川地域の人々が担っていたのである。
童謡の『ずいずいずっころばし』は、このお茶壺道中と関係があり、お茶壺道中の時は、一行を邪魔しないように気をつけろ!という意味があるそうだ。
戦国・江戸時代は、採金が盛んであったが、その遺跡として、金山比古・比売(かなやまひこ・ひめ)神社などがあり、採掘する人々が安全を祈願していたという。この時代の井川は、江戸幕府を支える重要な地域として活気があったそうだ。
井川の人々の生活と山犬信仰
井川の本村各所に川を生活水として利用している御手洗(みたらい)が散見された。また、子供がお堂の中で何をしても怒られない門間(かどま)地蔵堂もある。
江戸時代に許可された場所にしか作ることができなかった刎橋(はねばし)があり、13年に一度作り替えられたという。その時に人柱となった人々を祭る橋場地蔵など、過去の井川の歴史を大村さんが詳細に話してくれた。
井川には、長野県や山梨県から南アルプスの山を越えて来た人々がおり、それぞれ、本村、小河内、田代に集住しながら、地域独自の文化や風習を守ってきた。今回訪問した井川神社では、女性も境内に入ることができたり、神楽などの神事も参加したりできるが、田代地域の諏訪神社は、女人禁制の神社であり、神事を含めて全て男性で伝統を守っているとのことだ。地域により神楽の型なども異なり、地域の伝統が今も受け継がれている。また、井川神社は、山犬信仰の神社。山犬とはニホンオオカミのことを指すようだ。神社の奥に山犬の石像がありその信仰の特徴が窺える。
本村にある中野観音堂には、県重要指定文化財である千手観音立像が安置されている。中野観音堂の歴史について、代々観音堂を守っている田畑清さんに話を伺った。
堂内にある仏像は、制作年代は不詳だが、専門家の鑑定によるとその造りから平安時代中期とのこと。京都で作られた仏像を井川まで先祖が背負って運んで来たそうだ。また、歴史が明確に分かる遺物としては、鰐口がある。この鰐口には、『応永31年』(1424年)という年号と地名が明記されている。この時代に年号や地名が明記されているものは珍しいとのこと。他の鰐口は戦時下に没収を受けて無くなってしまったが、この鰐口は田畑家で守り保管されていたものだ。また、中野観音堂付近では、骨壺が見つかっており、当時、骨壺による埋葬は高貴な人々しかできない風習であったので、古来の井川には高貴な人物が住んでいた可能性があるとのことだ。
33体の大日古道の石像を集める
午前に歩いた大日古道にあった石像。現在配置されているものは、現代になり造り直した石像とのことだ。本物の石像は、中野観音堂の裏に集められている。
大日古道にあった石像のいくつかは、心無い人々に持ち去られてしまったものがあり、その保全をするために残ったものを現在の場所に集めたとのことだ。
家康に大切にされた井川には、平安時代からの歴史を偲ばせる遺構が各所に残されている。参加したメンバーは、古くから伝わる伝承や歴史を聞き、より深く井川という地域を理解しているようだった。
自然の音に耳を澄ませる
「ネイチャーナイト」
夕食後、スタッフのガイドのもと、井川自然の家にある広場から営火場までの山道を探検するネイチャーナイトを体験。広場に集合早々、スタッフから「耳を澄ませてください。何が聞こえますか?」と問いかけがあった。参加者は、懐中電灯を消し、耳を澄ませると、遠くで鳥が鳴く声、飛行機の音、鹿が鳴く声が聞こえてくる。次第に目も慣れてきて、最初は確認できなかった天空の星が、たくさん視認できるようになってきた。電灯も無く、まさに月明かりだけを頼りに歩き始める。時折、フクロウのような鳴き声も聞こえてくる。目は慣れてきたが山道を歩くには足元が暗いため、懐中電灯をつけて営火場を目指していく。山道を歩行中、雲の動きにより月が隠れることで視界が暗くなったり明るくなったり、変化を敏感に感じられる。このような状況の中で往来をしていた昔の人々の追体験ができる。耳を澄ませると我々人だけではなく、多種多様な生物の営みが静寂の中でも聞こえてくる。本来、人間が持っている視力・聴力などの感覚は、自然の中でこそ研ぎ澄まされるのを感じた。車のヘッドライトなどの灯りも無い状況で、しばし時間を忘れて歩いていた。
この暗闇の中で、参加者はお互いを気遣い、足元を照らしたり、危険な場所があると声をかけあったりしていた。お互いを思いやる気持ちが暗闇の中でのリスクを軽減し、連帯感も強めていった。
ネイチャーナイトを体験後、1日の振り返りをして1日目が終了した。古道を歩くことから始まり、井川の歴史散策、ネイチャーナイトと井川を歩いて体験するプログラムとなった。いつもより歩数が多かった参加者は、早々に布団に入っていた。
つる細工作り体験
2日目の朝食後、井川の伝統文化であるつる細工作りを体験。井川在住の遠藤さん、海野さん、長島さんから丁寧に指導いただく。遠藤さん達は、今回の講義のために事前につるを調達してくれていた。
3チームに分かれて、つる細工の編み方の基礎を学びながら、自分の作りたい作品作りに没頭していく参加者。将来の指導者という役割を見据えて、入念につる細工の手解きをうける。理想の形をイメージしながら実際に編んでいく過程で、なかなか思い通りの形にならず、都度、アドバイスを貰いながら、編んでいく。
丈夫なつるの扱いに苦戦しながらも遠藤さん達の丁寧な指導により、それぞれの思い思いの作品が完成した。2時間余りの講義はあっという間に過ぎていった。
最後に作品とともにみんなで集合写真。
講義の終了と修了式
昼食後、本講座の終了とともに認定証の授与式が開催された。
今回、10名に静岡県初級青少年指導員の認定証が授与された。また、井川自然の家自然体験活動指導者にも認定され、今後、指導者として本格的に活動しながら、井川の魅力を伝えていく。今回取得した資格には、履歴書にも記述できる公的な資格もあるようだ。
認定された10名の次世代指導者。変わりゆく環境の中で、心強い井川の伝道師として後進の指導を行ってくれるだろう。
イベント名 | 自然体験活動指導者育成講座2 |
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開催日・開催期間 | 毎年10月上旬 |
会場 | 静岡市南アルプスユネスコエコパーク井川自然の家 (静岡市葵区井川3055-1) |
駐車場 | 井川自然の家駐車場をご利用ください。 |
主催 | 静岡市南アルプスユネスコエコパーク井川自然の家 |
お問い合わせ | TEL:054-260-2761 |
※この情報は、2021年10月のものです。
開催時間など掲載内容は変更されている場合があります。おでかけ前に主催者・施設にご確認ください。