ヤマイヌ(ニホンオオカミ)は恐るべき存在である一方、焼畑農業を行う上で害獣となる、ニホンジカやイノシシなどを追い払う存在でもありました。そのため大井川流域では、ヤマイヌを祀る神社がいくつかみられます。田代の大井神社では、「大井社」としてその下に一頭のヤマイヌが右向きで座っている図柄の神札(ふだ)があり、疫病(えきびょう)よけ、猪鹿(しし)よけとして用いられたという伝承が残っています。
現在、ニホンジカの増殖、高山域への侵入が問題となっていますが、人と自然との関係が密接であった頃はそのバランスがとれていました。ヤマイヌが捕食者として南アルプスの生態系の頂点にいたことや、適度に行われていた狩猟も、ニホンジカの繁殖を抑制する要因の一つとなっていました。
●出典「南アルプス学・概論(改定版)2010年3月:静岡市」より